マンションの長期修繕計画とは?

マンションの快適な居住環境を確保し、資産価値の維持・向上を図るには、建物等の経年劣化に対して適時適切な修繕工事等を行うことが重要です。マンション管理組合はマンションの“長期修繕計画”を作成し、これに基づいた修繕積立金の額を設定、区分所有者が積み立てていくことが必要です。マンションの規模や立地条件、設備など個々のマンションに適した計画を策定しましょう。

また、一度作成したから完成としてしまうのではなく、一定期間ごとに修繕計画の改善・見直しを行うことも大切です。長期修繕計画が出来ていない状態で大規模修繕工事を始めようとしても、準備・判断・決定することが想像以上に沢山あり、思うように進行させられない状態に陥ってしまう管理組合も多くあるようです。今回の修繕成功magazineでは、長期修繕計画の作成・更新について解説します。

目次

長期修繕計画とは

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ご存じの方が多いかもしれませんが、長期修繕計画とは、マンションの性能を維持して建物の老朽化を防ぐために管理組合が作成するマンションの長期的な修繕計画のことです。一般的には10年~20年程度の期間で、外壁塗装(タイル)工事・鉄部塗装工事・防水工事などの大規模な修繕工事を行い、20年~30年程度の期間で排水管や給水管工事といった各種設備の交換工事を行います。

建物の共用部分をいかに適切に維持していくのか、そのためにはどの時期に、どのような内容で、どの程度の費用をかけて実施していくかを具体的にまとめたもので、国土交通省のガイドラインでは、マンション新築時に“計画期間は30年以上”かつ“大規模修繕工事が2回含まれる期間以上”の計画策定を促しています。

長期修繕計画を作成しておくことで計画的に準備を進められる、必要な修繕積立金の見込みが立てられる、修繕計画内容と必要資金の準備が整っていると工事もスムーズに進められる、といったメリットがあります。

  • 立地環境の影響で想定していたよりも劣化進行が早い(または遅い)
  • 計画時にはなかった新技術や材料により、長期的な修繕サイクルの見直しやコスト削減の可能性が出てきた
  • 消費税率の変更やその他経済環境により修繕積立金の見直しを検討する必要が出てきた

 

などを管理組合内で定期的に確認・検討することにより、適切な計画立案および準備が進められるようになります。

長期修繕計画の必要性

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国土交通省によると、長期修繕計画は①計画期間②推定修繕工事項目③修繕周期④推定修繕工事費⑤収支計画―を含んだもので作成し、これに基づいて⑥修繕積立金の額の算出を行うとしています。2021年9月には“長期修繕計画標準様式(2008年6月策定)”の内容を見直し、新築マンションで30年以上、既存マンションで25年以上としていた計画期間を一律“30年以上”に改め、かつ“大規模修繕工事が2回含まれる期間以上”の計画の作成を促しています。

ここにも示される通り、大規模修繕工事は1回で完結するものではありません。経年により2回目、3回目と工事を続ける必要があります。3回目の大規模修繕工事では2回目の大規模修繕大規模修繕工事からさらに十数年が経過し、新築時から数えると30年前後が経過することとなります。部分的にではなく全体的な修繕が必要な箇所も出てきますし、その範囲や箇所数も劣化が進んでいるので増加することが一般的です。

画像2.jpg出典:国土交通省『長期修繕計画標準様式』

長期修繕計画の見直し

大規模修繕工事は2回目以降も1回目と同じような修繕を行う定期的な工事なのだろうとイメージされていたら要注意です。1回目の大規模修繕大規模修繕工事から十数年経過後に実施にされる場合が多く、新築時の設備などを部分的に補修することで賄える工事も多いことでしょう。一方、2回目以降の大規模修繕工事および長期修繕計画作成時に気を付けておきたいことは次の通りです。

1)“次の次”を見据えて計画を立てる

まだ1度も大規模修繕工事を行っていない段階でも2回目、3回目の大規模修繕工事を見据えることが大切です。

  • 今回力を入れる箇所
  • 次回大掛かりな工事が予想されるので今回は必要最低限の補修に留める箇所
  • 今回は修繕を見送る箇所

 

など計画的かつ合理的な検討をしていくことが望ましいです。

2)劣化具合から適切な計画に更新する

足場をかけてみないと詳細な劣化状況が分からない場合が多いですが、建物調査診断や日々の管理状況などを総合的に判断して改修・修繕計画を適切な内容に更新していくと良いでしょう。計画の更新=必要な準備の変更となりますので、例えば修繕積立金の値上げが必要となった場合でも早期に検討・判断できれば月々の値上げ幅を抑えることにも繋がります。

3)“不要な設備”が出てくるかもしれない

すべての設備を毎回修繕・改修すると修繕積立金が当然多く必要となります。世帯状況やライフスタイルの多様化に伴い、マンション毎に必要な設備も変化しています。新築時では必要だった設備も、もしかしたら今後不要になりそうな(既に活用されていない)設備となるかもしれません。そのような場合はメンテナンスコストがかからないような計画に変更し、修繕・改修が必要な場所に資金をよりかけられるようにすることが望ましいでしょう。

国土交通省の長期修繕計画標準様式記載例には、2回目の工事で工事内容の変更や新たな施工対象箇所となる場所の一例として次の項目を挙げています。

<屋上防水>

1回目の工事では部分的な補修で済んでいた屋上防水も、全体的な修繕が必要となる場合が多いようです。また、屋根の場合は既存の屋根材を撤去して新しい屋根材で工事する必要があるため費用も増額となりやすいようです。

<金物類>

郵便受けをはじめとして、バルコニー内の各戸を仕切る隔て板や建物内の掲示板などは錆や故障により取り替える必要が出てくる場合が多いようです。

<消防用設備>

消防用設備は定期的に点検されていると思いますが、経年劣化することで設備自体が使えなくなってしまっては意味がありません。交換時期にあわせて取り替える必要が出てきます。

<駐車場>

機械式駐車場の場合は錆や故障による不調やメンテナンスの大変さもありますが、昨今は収容可能サイズの制限により入庫できない車輛も増えたため空きが目立つこともあります。そのため、機械式駐車場を解体して平置き駐車場に変更する管理組合もあるようです。平置き駐車場の場合でも路面の陥没や白線の消失などに対する修繕が発生します。

修繕周期の設定

2回目、3回目の大規模修繕工事を実施する修繕周期は、経年劣化していく建物の部位や設備の性能・機能を、実用上支障がない水準まで経済的に回復させることができなくなるまでの期間をいい、マンションの仕様や立地条件などに応じて設定します。早過ぎると過剰な修繕となり長期的な修繕費用が上がってしまいますし、遅すぎても劣化が進み工事費を増加させます。

見直しの際は、建物及び設備の劣化状況などの調査・診断の結果に基づいて設定し、さらに、部材や工事仕様、設備や工法等の技術革新によっても適切な修繕周期が変わる可能性がある点にも留意して、“あなたのマンションに適した計画内容”とすることが大切です。

次の表は修繕周期の参考例です。屋上防水や外部塗装は1回目の大規模修繕工事で補修を、2回目では撤去して新設することなどが分かります。

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出典:国土交通省『長期修繕計画標準様式』

このような内容を盛り込んで作成された長期修繕計画は、計画修繕工事と修繕積立金の負担の根拠となる重要なものです。決められた保管場所に議事録、管理規約などとともに大切に保管し、区分所有者又は利害関係人の請求に応じて閲覧できるようにしましょう。管理組合でホームページを運営しそこに掲載することや、『マンションみらいネット』『Mcloud(エムクラウド)』に登録して開示することも方法の一つです。

自治体の支援制度

「長期修繕計画の必要性は分かった。では、どうやって計画づくりを進めたらいいのか」という段階にある管理組合には、自治体の支援制度を利用するのも一つの手です。

神奈川県の『マンションアドバイザー派遣事業』を例にご紹介します。

これはマンションの管理組合または管理組合等の承認を得た委員会に、県がマンション管理士や建築士などの専門家を年度内に1回無料で派遣し、

  • 管理委託契約に関すること
  • 維持管理費、修繕積立金等財務に関すること
  • 管理組合の設立、運営、管理規約に関すること
  • マンションの長期修繕計画や大規模修繕工事等に関すること
  • マンションの改修や耐震性の向上に関すること

 

などのアドバイスを行うものです。対象は県内の分譲マンションで、横浜市・川崎市・相模原市・横須賀市を除きますが、対象外の4市には独自の支援制度があります。また、横浜市では長期修繕計画の作成を支援する事業も実施しています。

各市制度名 窓口 電話番号
横浜市マンションアドバイザー
派遣支援
横浜市住宅供給公社
街づくり事業課
045-451-7740
川崎市アドバイザー派遣制度 川崎市住宅供給公社
ハウジングサロン
044-822-9380
相模原市分譲マンションアドバイザー
派遣制度
相模原市 住宅課 042-769-9817
横須賀市マンション相談
(出張相談会)
よこすかマンション管理組合ネットワーク 046-824-8133

横浜市の『マンション長期修繕計画作成促進モデル事業』

全国の政令市で比較すると、マンション居住率の最も高いのが横浜市。次が神戸市、そして川崎市と続きます。横浜市は、長期修繕計画がない/見直していないマンションでは、積立金不足により計画修繕工事ができなくなる恐れがあるため、2023年度に『マンション長期修繕計画作成促進モデル事業』を予算化し、長期修繕計画の作成や見直しを促進しています。

対象となるのは

  1. 年1回以上総会を開催している
  2. 管理規約がある
  3. 長期修繕計画を作成していない又は作成から15年以上見直しをしていない
  4. 長期修繕計画の作成又は見直しを実施すること及びその経費について
  5. 当該マンションの管理組合の規約に基づき適切に意思決定がされている

 

管理組合で、長期修繕計画作成に係る費用の一部を、20万円を上限に補助します。
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出典:横浜市マンション管理適正化推進計画

申請に当たっては事前に横浜市マンション登録制度要綱に基づくマンション登録や管理規約に基づく意思決定が必要です。補助金交付決定後に事業着手し、2024年1月までに実績報告書を提出する必要があります。

問い合わせ先:横浜市建築局住宅部住宅再生課 045-671-2954

まとめ

今回お伝えしたかったポイントは“マンション毎に長期修繕計画を作成・更新していく必要がある”ということです。立地環境によって劣化状況が変わるのみでなく、そこに住まう人によって快適さや求める安全性・設備も変わっていきます。快適なマンション生活と良質なマンションストック形成のため、適切な長期修繕計画が立てられるよう管理組合全体で取り組んでいきましょう。

 

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