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マンション管理組合・建物オーナーが知っておきたい「建築基準法」の基礎知識

今回は、マンション管理組合様・建物オーナー様が知っておきたい『建築基準法』の基礎知識について解説していきます。
建築基準法とは
「建築基準法」とは建物に関して最低限の基本ルールを定めたもので、国民の生命や健康維持、財産を守ることを目的として定められています。建築基準法は日本で建てられる建物すべてに適応され、建築関係全般のベースとなる法律となっています。
建築確認の手続きと流れ
建築確認とは
建築基準法では、建物を「建築」、「大規模の修繕」、「大規模の模様替」をしようとする場合は、工事を着工する前に建築主事または指定確認検査機関によって、建築基準法に適合しているか検査を受けるよう定めています(建築基準法第6条)。
この手続きを建築確認といいます。
万が一、建築確認による確認済証の交付を受けずに工事を行った場合、施工業者に対して1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金が科せられます(建築基準法第6条第8項違反)。
建築確認の流れ
建築確認は建築主事や自治体から指定をうけた指定確認検査機関にて行います。一般的には建築主の代理人として設計事務所や施工会社が確認の申請書を提出します。それから、着工前に書面にて確認する「建築確認申請」、工事完了後に自治体担当者が現地で検査を行う「完了検査」の2段階で検査を実施します。
例外として、3階建て以上など自治体によって定めた基準に合致する建築物については工事途中でも現地にて検査が実施されます。これを「中間検査」と呼びます。
※中間検査に関わる建築物の規定は地方自治体等により異なります。
また、令和3年より建築確認についても電子申請で行えるようになりました。電子申請の場合、電子ファイルの送信のみで申請が完了し、押印や電子署名は不要となります。
詳細はこちらをご覧ください。(国土交通省 一般財団法人建築行政情報センター)
マンションの大規模修繕工事も建築確認が必要?
ここで気になるのが、「マンションの大規模修繕工事を行う際も建築確認が必要なのか」ということではないでしょうか。
実は、マンションの大規模修繕工事やリノベーション工事は必ずしも建築確認が必要ではありません。
確認申請が必要となる条件は「建築基準法第6条第1項第1号・第2号・第3号に当てはまる規模の建築物」、かつ「主要構造部の一種以上について過半の修繕・模様替えに該当する工事」を行う場合です。
簡単にポイントを押さえましょう。
<建築基準法第6条第1項第1号・第2号・第3号に当てはまる規模の建築物>
区分 | 内容 |
1号建築物 | 病院・映画館・学校・百貨店などの特殊建築物で床面積の合計が200㎡を超える建築物 |
2号建築物 |
1号に該当せず |
3号建築物 |
都市計画区域や準都市計画区域等内にある、1号・2号いずれにも該当しない建築物 |
その他建築物 |
第1号~第3号いずれにも該当しない建築物 |
※令和7年4月より、木造戸建の大規模な修繕工事が建築確認の対象となっています。詳細はこちらをご覧ください。
<主要構造部の一種以上について過半の修繕・模様替えに該当する工事>
主要構造部とは、建物の構造上重要となる壁や柱、床、はり、屋根、階段などを指します(建築基準法第2条第1項第5号)。
そして、建築基準法ではマンション(共同住宅)において建築確認が必要な「建築」、「大規模の修繕」、「大規模の模様替」それぞれの工事を次のように定義しています。
建築
建築物を新築し、増築し、改築し、又は移転すること (建築基準法第2条第13項)
大規模の修繕
建築物の主要構造部(壁、柱、床、はり、屋根又は階段)の一種以上について行う過半の修繕 (建築基準法第2条第14項)
大規模の模様替
建築物の主要構造部(壁、柱、床、はり、屋根又は階段)の一種以上について行う過半の模様替 (建築基準法第2条第15項)
一般的なマンションの大規模修繕工事は、外壁タイルの張替えや外壁塗装、屋上やバルコニー床の防水シートの張替えなど建物表面の仕上げに関する工事です。建築基準法で定義されている主要構造部を変更する工事ではないため、基本的に建築確認は不要となります。
ただし、大規模修繕工事であってもエレベーターや立体駐車場の新設や増設工事を行う場合は、建築確認申請が必要です。
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エレベーターの新設・増設も建築確認が必要?
エレベーターがないマンションの場合、修繕計画の中でエレベーター(昇降機)の新設・増設を検討することがあるかと思います。マンションに新たにエレベーターを設置する場合については、建築物としての建築確認(建ぺい率や高さ制限など)に加えて建築設備として建築確認の申請が必要です。
ただし、建物が完了検査を受けていない場合(確認済証が交付されていない場合)は、別途手続きが必要ですので注意しましょう。
建築基準法の「単体規定」と「集団規定」
次に、建築基準法には具体的にどのような規定があるかを見ていきましょう。建物に関する規定は、大きく分けて「単体規定」と「集団規定」の2つがあります。
単体規定
建物自体の安全性を確保するための規定です。建物の耐震構造や給排水設備、採光、火災時の避難経路など、建物に対してのルールが定められています。
集団規定
建物の用途や容積、建ぺい、高さ、道路との距離など、健全なまちづくりのために周囲の環境や土地の利用について定められている規定です。集団規定は都市計画区域と準都市計画区域にのみ適用されますが、それ以外の区域についても必要に応じて制限を定めることができます。
「違反建築物」と「既存不適格建築物」の違い
違反建築物
建築基準法で定められた規定に反して建てられた建物のことです。違反建築物については、建築主や施工業者、その建築物の所有者等に対して、工事停止命令、建築物の除去命令、修繕、使用制限などの是正措置命令がなされます(建築基準法第9条1項)。もし、是正措置命令に従わない場合には、罰則が科せられることもあります(建築基準法第9条)。注意点として、建築当時の関係者だけでなく、新たにその建築物の所有者となった方が不適合を是正しなければならない場合があります。そのため、新たな所有者でも購入前に違反建築物でないか確認しましょう。
既存不適格建築物
建築当時は適法だったが現行の建築基準法などの法律に適合していない建物のことをいいます。新たな規定ができた場合、既に存在する建物を新しい規定に適合させる必要はありませんが(建築基準法第3条2項)、一定規模以上の増改築や建て替えを行う際は現行の規定に適合させる必要があるため注意が必要です。
マンションに義務付けられている「定期報告制度」とは
建築基準法第12条では、不特定多数の人が利用する建物の所有者は建物が完成した後も定期的な点検・報告を行うことが義務付けられています。「定期報告制度」または「12条点検」と呼ばれる点検義務です。
定期報告が必要な建築物は、政令(国)と特定行政庁(建築主事を置く都道府県や市区町村)でそれぞれ規定が異なります。
政令の定めでは、「特定建築物」とは劇場、病院、ホテル、共同住宅、学校、百貨店など特定の用途に使われる建物で、その用途に使う部分の床面積の合計が200㎡以上ある建築物のことをいいます。「建築設備」は給排水設備や換気設備、排煙設備、「昇降機」はエレベーター、「消防設備」は随時閉鎖式の防火戸などがこれに該当します。
加えて、特定行政庁ごとにそれぞれ独自の基準で定めた特定建築物及び建築設備等の規定が設けられています。例えば東京都の場合、階数5階以上かつ床面積の合計が1,000㎡を超える共同住宅については、3年ごとに定期報告の対象となっています。

マンションがある「地域」「用途」「規模」によって定期報告の実施内容・周期が異なりますので、必ず各自治体に確認することが大切です。※それぞれ例外規定があるため、詳細は国土交通省ホームページにてご確認ください。
これらの建築物については、一級建築士や二級建築士、建築設備等検査員などの資格者に依頼し、劣化状況についての定期点検を受けなければなりません。また、点検の結果を特定行政庁に報告する必要があります。
万が一定期報告を怠ったり、虚偽の報告を行った場合は100万円以下の罰金が科せられます(建築基準法第101条)。建物を適切に維持・管理していくためにも定期報告はマンション管理組合様や建物オーナー様の大切な義務なのです。

定期報告制度についてはこちらのセミナー動画でも詳しく解説していますので、ぜひご覧ください。
マンション管理に関わる関係法規「消防法」
建築関係の法律は他にもバリアフリー法や消防法、都市計画法などさまざまな関係法規がありますが、これらは建築基準法では定められていない詳細をサポートするものとなっています。
特にマンションを管理する上で重要となる「消防法」では、いざという時のために消火設備や避難設備が正しく使用できるように、有資格者による点検を行うことが義務付けられています。防火対象物に当てはまる建築物については、6か月ごとに外観または簡易的な操作による確認をする「機器点検」、1年ごとに実際に作動させ総合的な機能を確認する「総合点検」を行うよう定められています(消防法第17条3の3)。
さらに、飲食店、百貨店、旅館、ホテル、病院、福祉施設などの特定防火対象物は1年ごと、それ以外の共同住宅、学校、工場、駐車場などは3年ごとに点検結果を消防署へ届け出ることが義務付けられています。
消防法や防災に関する内容はこちらでもご紹介しています。
まとめ
今回はマンション管理組合様・建物オーナー様が知っておきたい『建築基準法』について詳しく解説しました。建築基準法は建物を建てる時のルールだと認識される方も多いと思いますが、建物を維持・管理していく上でも大きく関係しています。
特に、建物の所有者には定期的に点検・報告することが義務付けられており、管理組合様や建物オーナー様にとって建物の安全性を維持することは重要な役割となっています。
建築確認の申請についても、実際は施工会社や設計事務所が行うため管理組合様や建物オーナー様が意識されることは少ないと思いますが、基礎知識として覚えておくと安心です。安全・安心・快適な住環境を維持するために、ご自身のマンションがきちんと建築基準法に適合しているのか改めて意識してみるといいかもしれません。
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